平成15年4月入学時の生徒から対象となる高等学校の新指導要領・数学において,確率と統計の関連で,以下の点が改訂になっております。今回の改訂は,大学入試センターが実施するセンター入試の出題範囲にも統計が深く関わってくることを意味する点で,大学で統計関連科目を教育する教員にも重要な問題と思われます。
数学に関するセンター入試の対象は,現在,以下のようになっています。
数学I,数学A,数学II,数学B
具体的には,「数学I」,「数学I・A」の2つから1つを選択する試験時間,「数学II」,「数学II・B」の2つから1つを選択する試験時間,が設置されています。「数学I・A」は,「数学I」と「数学A」を一緒にしたもので,「数学A」の項目”数と式”は必修,残り3項目は選択で1つを選べるようになっています。「数学II・B」は,「数学II」と「数学B」を一緒にしたもので,「数学B」の4項目の全てが出題され,そのうちの2項目を選択するようになっています。
この流れから,改訂後の対象範囲は,
数学基礎,数学I,数学A,数学II,数学B
となります。中間答申には,既に,「数学基礎」と「数学I」を合併した形の出題」が提案されており,日本数学会は機関誌 “数学” においてこの件に対する反対声明を公表しております。また,「過年度生(いわゆる浪人)に対しては,配慮する。」があります。
新課程になって,選択項目がある科目は,センター入試の対象範囲と予想される上の5科目中では,「数学B」だけです。現在のような出題をするとすれば,「数学II・B」という形にまとめられ,「数学B」の4項目の全てが出題され,そのうちの2項目を選択するようになることが予想されます。 センター入試の性格からは,様々な受験生に対応することが求められるのは当然であり,この範囲に含まれる項目は,すべて公平に,選択項目として出題されると考えられます。
統計に関連するものは具体的に,数学基礎の「身近な統計」と数学Bの「統計とコンピュータ」です。
上記の項目を実際に,高等学校の教育の中で定着・普及させていくためには,高等学校における統計項目の指導事例書や適切な入試問題の作成実績が必要になります。統計学会関連の諸先生方には,是非,この視点からのご協力をお願いいたします。
また,この件に関する文科省への提言やご意見をお持ちの先生は,法政大学 長坂建二(nagasaka@k.hosei.ac.jp),
東洋大学 渡辺美智子 (watanabe_michiko@nifty.com) までメールにてお知らせいただければ幸いです。
改訂前 | 改訂後 (H15年4月入学生より対象) |
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以下は,文部省告示「高等学校学習指導要領」(平成11年3月) より抜粋
* 「身近な統計」(数学基礎)
目的に応じて資料を収集し,それを表やグラフなどを用いて整理するとともに,資料の傾向を代表値を用いてとらえるなど,統計の考えを理解し,それを活用できるようにする。
ア 資料の整理,イ 資料の傾向の把握
** 「統計とコンピュータ」(数学B)
統計についての基本的な概念を理解し,身近な資料を表計算用のソフトウェアなどを利用して整理・分析し,資料の傾向を的確にとらえることができるようにする。
ア 資料の整理 (度数分布表,相関図), イ 資料の分析 (代表値,分散,標準偏差,相関係数)
*** 「確率分布」(数学C)
確率の計算及び確率変数とその分布についての理解を深め,不確定な事象を数学的に考察する能力を伸ばすとともに,それらを活用できるようにする。
ア 確率の計算, イ 確率分布 (確率変数と確率分布,二項分布,条件つき確率,平均,分散,標準偏差)
**** 「統計処理」
連続的な確率分布や統計的な推測について理解し,統計的な見方や考え方を豊かにするとともに,それらを統計的な推測に活用できるようにする。
ア 正規分布 (連続型確率変数,正規分布), イ 統計的な推測の考え (推定)
統計教育委員会 2003.2.5 文責 渡辺